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続・たまゆら

 登場人物: 泰 雄    この物語のヒーロー。
         幸  恵   同ヒロイン。最近、極楽入りした。泰雄の亡妻。
         由美子   交通事故で死んだと伝えられているが真相は不明。若い頃、泰雄と同棲していたらしい。
         翔 太    泰雄の孫のひとり。        その他。

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 幸恵も最近ではどうにか極楽での暮らしぶりにも慣れてきたが、ここではあまりにもすることがなく、その点が不満といえば不満だ。食事の時間になれば、自然にテーブルの上に、この上なく美味しい料理が現れるし、今までのような洗い物の必要もなく、洗濯もだれがするのか、いつの間にか終って、すべてがキレイに折りたたまれ、いつも洒落たデザインの箪笥に、きちんと収まっていた。もちろん、掃除も「見えない手」がやってくれる。

 住居から大して離れていないところに、こざっぱりとした公園があり、木々の間では四季を問わず美しい花が咲き誇り、いろいろな種類の鳥達が爽やかな声で囀っている。気温も適度に調節され、暑くもなければ、かといって寒くもない、いわば常春の国といって差し支えなかった。会いたい人には、そう思っただけで直ぐに逢えたし、もう留守電に腹を立てることもなくなった。生前可愛がってくれた小学校の安井先生とも再会を果たし、夫の泰雄よりずっと好きだった、従兄の雄一郎とも連絡がつき、手をつなぎ肩を組みながら浮き浮きした気分で蓮池の散策もできた。もちろんその時には、少女期の、雄一郎との楽しい思い出話が次から次に飛び出してきて、何時までたっても話は尽きなかった。

  面白いのはこちらの連中の生活ぶりだ。生前ナチュラリストだった者は相変わらず、極楽の花や鳥に夢中で、やはり愛用のカメラを持ってあちこち歩き回っている。

 こういった方面にあまり詳しくない幸恵でも、ひとつ発見があった。それはここには、昆虫類は少なく、極楽トンボが数種類いるだけなのだ。このトンボは翅が時間によって七色に変るところが、娑婆のトンボと違っていた。その色を見るだけで、今何時かを言い当てることさえ出来た。

 極楽の植生は多様で、例のナチュラリストの植木氏は、極楽に到着してから、まいにち観察していた花や木の写真を、一冊の本にまとめる仕事にいま打ち込んでいる。夢はここでの唯一の出版社である『エディシオン・パラディ』から八十部限定の豪華装丁本を出版することだという。幸恵は一度その原稿を見せて貰らったことがあるが、そこにはその植物ごとに、発見した正確な日時と場所が書き込まれ、後景をぼかした見事なマクロ撮影には思わず感嘆の声を上げてしまった。聞けば、氏は若い頃、東京のある農業大学の花卉園芸学科に籍を置き、学校では極楽の植物を専攻し、卒論もこのテーマを選んだという。

 ここで極楽の木や花の一部を披露すると、たとえば、有名な優曇華の花がある。三千年に一度しか開花しない希少な花だが、こちらへ来てまもなく、幸恵は地元のひとからこの木が、丁度三年後に、その開花の時季を迎えると聞かされ、期待で胸が大きく膨らんだ。

 また、娑婆で小説を書いていたものは、やはり極楽を舞台に、長編の制作に日夜勤しんでいる。また、エッセイこそ自分の生きがいと、来る日も来る日も身辺のいろいろを丁寧に書き留めていたB子さんは、こちらでも相変わらず、綺麗な字で小さな発見を書き綴っている。歌や音楽の好きだった者たちは、蓮池の岸辺で、同士とロータス・アンサンブルという名のバンドを組んで、演奏会を開き、そのつど大勢のファンを集めている。また娑婆にいたころは油絵の力作で、しばしば上野の展覧会に入賞していたものは、こちらでも小高い丘のあたりに使い古したお気に入りのイーゼルを立て、新しい風景画に、意欲的に取り組んでいる。このイーゼルもきっと、家族が気を利かせて、葬儀のときに、棺の中にそっとしのばせて呉れたのだろう。もちろん、俳諧を嗜んでいた者たちは、この土地柄にあった、新しい季語集や、歳時記の編纂に余念がない。

                                 (つづく)

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